アースアートプロジェクトに関する質問をいただきました。
下記、質問と回答です。

===質問===
お世話になっております。

一度目の質問ではご丁寧なお答えありがとうございました。

玉川大学の森口佳緒です。

早速で申し訳ないのですが、また来年のわふフェスを考える上での質問が出てきましたので、そのご回答をお願い致します。
先日作成してくださったブログで、峰野さんの質問である「わふフェス2016を終えて、日本の私たちに伝えたいことは何ですか?」に対するお答えの中で、アースアートプロジェクトin ラダック2017」のお話が出てきたと思います。
そのことで、以前に開催された2014年のアースアートプロジェクトについて質問があります。

実際にアーティストの皆さんがおこなったアースアートプロジェクトの内容とは、他のウォールアートプロジェクトとはまた違った、ラダックの環境や教育に視点を向けた特別なワークショップだったのでしょうか?
・また、そうだとしたらアーティストの皆さんはどのようなワークショップを開いたのでしょうか?
ご多忙のところ恐縮ですが、2度目のご回答お待ちしております。


玉川大学
芸術学部 メディア・デザイン学科
2年 森口 佳緒

===回答===

ウォールアートフェスティバル(WAF)とアースアートプロジェクト(EAP)は、アーティストが学校を舞台に滞在制作し、学校の子どもたちや教師、地元の人々と芸術祭を開催する、という意味では似ていますが、コンセプトが少し異なります。なので、ワークショップのアプローチも異なっていました。まずは、EAPの背景について少し伝えさせてください。
 
アースアートプロジェクトの副題は、「地球を進むどんどん進む 国境なきアート集団」です。
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 WAFが比較的アプローチしやすい地域(と言っても、ビハール州の場合・デリーから列車で19時間、ワルリ族の村は最寄りのムンバイ空港から車で2〜3時間かかりますが)、で開催しているのに対し、EAPは、峻険な山々に囲まれたラダック地方(標高3500m〜5000m)を対象にしています。DSC_0720
今でこそ、ラダック地方の中心都市であるレーまで、デリーから飛行機が飛んでおり、1時間20分で行けますが、陸路では絶壁沿いの道をバスで二泊三日かけてようやくたどり着きます。
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1974年まで外国人の立ち入りが制限されていたラダック地方には、独自の文化が残されていて、自給自足で循環する暮らしが保たれてきていました。
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4月、春の種まきをヤクと。
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7月、夏の様子。
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ラダックの家庭料理、ティングモ。ウリのカレー。

しかし、急激なグローバリゼーションの波にさらされ、都市部での人口過密化、水不足、学歴社会化、雇用不足、若者の将来への不安の高まりなどがこの10年ほどで顕在化しています。
 私たちが特に注目したのが相次ぐ公立学校の閉鎖でした。社会の変化と共に保護者たちの教育観も変わってきています。「より良い教育を子どもたちに受けさせ、良い職業に就き、安定した給料を得ること」が教育の大きな目的になっており、より質の高い私立学校に通わせる家庭が増えています。一方で、公立学校の教育の質はかねてから(インドの大多数の地域で)あまり信頼が置かれておらず、村に公立学校があるのに、多くの子どもたちがバスで村から数十分から1時間ほどかけて都市部の学校へ通う、もしくは、寄宿舎付きの学校に通っています。
生徒数が減った学校では、ネパールからの出稼ぎ者の子どもたちの方が多くなっている場合もあり、政府の判断で閉校になる学校が増えています。家族の紐帯や、モノカルチャー化によってアイデンティティが希薄になりつつある、老人たちが肩身の狭い思いをしている、ということも問題です。
 
話をEAPへ戻します。
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 そのような状況をNang Middle Schoolという公立学校の校長先生から聞いた私たちは、村人たちの公立学校への注目を再び集めたい、という彼女の真剣な考えに賛同し、EAP2014のプレエキシビションを開催することにしました。注目したのは、自然の恵みなどの土地が元々持っている力や、そこで暮してきた人々の日々の営み、世代を超えて伝えられてきた知識やストーリです。アーティストと共にそれらに光を照射し、子どもたちが成長とともに携えてくれたら、知識偏重/学歴重視ではない教育や、弱まりつつある地域共同体を再び力強くする原動力になるのではと考えました。変化の岐路にある今だからこそ、選び直すことができると思いました。
 
アーティストたちのワークショップや制作は、必然的にローカリティに根ざしたものが中心になりました。
旅する服屋さん〜Journey Tailor〜は、Nang 村の植物で布地を染め衣装をつくるワークショップを。
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 写真:Serge Fouillet Koutchinsky
 
作曲家・樅山智子さんは、子どもたちとフィールドワークに出かけ村の四季の音を集めたり、「ビルンパ」と呼ばれる村に言い伝えられている妖精にまつわる話を調べました。それらを子どもたちが声で再現し、村の暮らしを表現するパフォーマンスを観客の前で披露しました。その際に、旅する服屋さんが作った衣装をまといました。
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樅山さんと子どもたちのフィールドワークの様子。岩の音を聴く。
写真:Serge Fouillet Koutchinsky
 
映像作家の奥間勝也さんは、学校の子どもたちを主役にして、ラダック地方に伝わる「ケセル物語」を題材に、ラダックの昔と今を子どもたちが調べて回る半フィクション/半ドキュメンタリーの短編映画「Each Story」を製作しました。(この作品は、山形国際ドキュメンタリー映画祭で千波万波賞の奨励賞を受賞しました)
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 写真:奥間勝也
 
藤井龍さんは、ラダック地方での水の大切さを「ベジタブルジャーニー」という映像作品で表し、山で等身大の岩を積む映像を製作。
画家の大小島真木さんは、教室の4面の壁いっぱいにNang村に伝わる話や、山々、星々をテーマにした壁画を制作。
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写真:Serge Fouillet Koutchinsky

インド人アーティストのNobina Guptaさんは、ラダックの伝統医・アムチから薬草医学の話を聞き取りし、子どもたちと村で薬草を探し、絵で表現するワークショップとともに、村にまつわる自身の作品を完成させました。
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写真:Tushar Vayeda
 
フランス人アーティストのSerge Fouillet Koutchinskyさんは、学校の子どもたちが伝統的な服を着てポートレイト映像作品を制作しました。
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写真:Serge Fouillet Koutchinsky
 
それらを二日間のエキシビションで展示しました。こちらの願い通り、ほとんどの村人、30kmほど離れたレーの街の政府役員、周辺学校の生徒、教師たちが訪れてくれました。
 
その約1年後、2015年に学校を訪れた私たちは、13人だった生徒数が、18人になったこと、(2016年には22人に)、子どもたちがTeachers dayという先生たちに日頃のお礼をする日に自分たちでファッションショーを開催したり、「絵を描きたい」「踊りたい」など、子どもたちが強く動機付けられていることなどの報告を受けました
また慣例で校長先生が4年目に転勤しなければいけないところ、村人が教育委員会に継続して村にいてくれるように申し立てしたところ、それが認められた、などという思ってもみなかった変化も起きました。

ここまでが、EAP2014の前半のエキシビションについてです。
ここから、標高5000mにある遊牧民の子どもたちが学ぶ学校、Nomadic Residential School Pugaへと舞台を移しました。
 
EAPをやろうと思い立ったのは、その学校の子どもたちの言葉でした。
「どうしてこの学校で勉強しているの?」という私たちの質問に対し、「僕たちは教育を受けた遊牧民になりたい」と答えたのです。
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遊牧民として生きる彼らは、燃料に家畜の糞や灌木を用い、テントでの移動遊牧生活をしています。しかし、近年の地球温暖化の影響で雪が減り、雨が増えた結果、地下水が減りヤクやパシュミナヤギなどの動物たちに食べさせる草がなかなか育たない、という問題に直面しています。結果、家畜を売り払い都市部へ移住する人々が増加しています。標高5000mという地球の極に暮らし、ほとんど二酸化炭素を出さない生活をしている彼らが温暖化の影響を受けているということ、それでもなお遊牧民としての生活を顧み、よりよくしていこうとしている彼らのことを、外へ向けて発信したいと思いました。同時に、アートプロジェクトを行うことで、これまでのように子どもたちの創造力/想像力に刺激を与え、より自由な発想を持った子たちになっていってほしい、と思いました。
標高5000m の酸素濃度が平地の半分しないという過酷な状況下で、アーティストたちはフィールドワークやワークショップを重ね、10日間で作品を完成させました。
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Nomadic Circus  by 旅する服屋さんと生徒たちの”Team Dragon Tailors”

EAP2014の本には、Nomadic Residential School Pugaの子どもたちや教師たちの感想も記録されています。よろしければお手にとってみてください ( http://storetool.jp/4009074092/ITMP/0092.html

2017年7月〜8月にかけて開催するアースアートプロジェクト2017は、2014のときにエキシビションに来てくれた学校の教師たちが自分たちの学校でも開催してほしい、というオファーを出してくれ、実現への準備を進めています。
ボランティア参加者を募集中です。
 
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